無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
ジリリリリ,,,。朝6時。

彩月は、就職した日から使っている目覚まし時計を止めた。

目覚ましなど鳴らさなくても、いつもはもうとっくに起きている時間。走る準備はすでに万端。

彩月は玄関に向かうと、床にお尻をつき両膝を立てた状態で靴紐を結ぶ。

靴紐はその都度、足の状態に合わせて調節し結び直すこと。それがランニングで怪我を予防するための第一歩だ。

彩月の朝はランニングで始まる。よほどの大雨でない限りは毎日走る。

ランニングで引き締まった体に、ブラウン色のポニーテール。

彩月は体育会系だがかなり可愛いので、軽い誘いから本気の告白まで結構受ける。

高校の頃、選抜チームに選ばれたときは、陸上雑誌の表紙を飾ったこともある程度に可愛いのだ。

しかし、彩月は

"自分から好きにならないと絶対に恋愛なんてできない"

と、頑なに誘いを断ってきた生真面目ぶり。

体育会系の男性にもかっこいい人はたくさんいるが、どちらかというとフィギュアスケーターのようにしなやかな体つきが好き。

顔も格好いいより可愛い系が好み。でも、チャラいのは無理。

そんな人はリアルでもなかなかいないのに、体育大学で出会うことはほぼ皆無だった。

就職してからは、仕事が楽しくなり、恋愛に関心を向けることが少なくなった。

お客様から言い寄られることがあっても、それは仕事の延長上。恋愛感情がわくことは難しい。

就職して4年目。主任に抜擢され、益々仕事にやりがいが出てきた新年度。彼は彩月の前に現れた。

アイドルのような可愛い顔立ちなのに無表情。体格も文化系独特の細さ。

スポーツとは無縁、インテリアデザインという真逆の分野から放り込まれた御曹司。

無表情な中に憂いと翳りが見え隠れしている。父親にさえ心を開いていない。

彼が抱える闇は、空極の世話焼きキャラの彩月のツボにはまった。

"彼の憂いを少なくしたい"

彩月の庇護欲に火がついた瞬間だった。

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