無感情なイケメン社員を熱血系に変える方法
「おいおい、会社を辞めるなんて物騒なことを言うもんじゃない。駿太郎がそこまで言うなら私にも考えがある」

庄之助は顎に手をやり、考え込むような仕草をした。

「サンフランシスコ支社は、伊藤さんが勤めてくれている支店と同じようなモールにテナントとして入っている。ただ違うのは、ウィングライフスポーツの隣にはウィングライフインテリアが並んでいるという点だ。こちらもウィングライフスポーツ程ではないが、業績が落ちている。駿太郎がそこに勤めて、伊藤さんと同じように業績を上げる手助けをしてくれるというのなら転勤を許可しよう」

「任期は?」

「伊藤さんには3年で結果を出してもらいたい」

「俺は?」

「駿太郎は1年目にその後の勤務継続をどうするか判断する。1年後、前年度の売り上げを20%アップできていれば、あと2年の派遣を継続しよう」

英語が全く出来ない駿太郎にとって、この申し出は無謀だった。インテリアデザインにしても、販売にしても、本気で取り組んでいなかったために、現時点で勝算があるとは言いがたい。

しかし、駿太郎は、せっかく想いを通わせた彩月とこのタイミングで離れたくはなかった。

しかもライバル心むき出しの兄のサンフランシスコサッカーチーム移籍も絡んでいるのだ。

絶対にこの勝負負けるわけには行かない。

「やってやるよ」

駿太郎以外の羽生家面々がうっすらと笑みを浮かべていることに駿太郎はもちろん、彩月も気づいてはいなかった。

「じゃあ、出発は一ヶ月後だ。それまでに伊藤さんも駿太郎も引き継ぎと準備をしてくれ」

庄之助は満足そうに頷いているが、その横で駿太郎は何かを吹っ切ったように周囲が驚くような言葉を発した。

「親父、悪いけど、これからの一ヶ月ウィングライフインテリアに戻してくれないか?」

彩月は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうな顔をしてウンウンと頷いて見せた。
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