高桐先生はビターが嫌い。
教師という仕事。

******


「どうして最近断ってばっかなの」

「…え、」



ある日の日曜の夜。

久しぶりのデートで、あたしは相手の男の人にそう言われた。

彼は、先月誕生日を迎えて22歳になったばかりのヒトシ君。

ヒトシ君とこうしてデートをするのは、数ヵ月ぶりだ。

最近は何故かデートをする気になれない日が続いていて、だけど、今日は久しぶりに誰かとこうして一緒にいたい気分になれたのだ。

「レストランに食事に行こう」なんて誘うから、こうしてついていってみたけど。

あたしはヒトシ君の言葉に、少し考えたあと言った。



「…ごめんね。最近なんだか忙しくって」

「まぁ…この時期だしね。仕方ないけど。俺の誕生日くらいは一緒にいたかったな」

「ごめんってば。なかなか時間がとれなかったの」

「……誰かと、良い出会いでもあった?」



ヒトシ君はそう言うと、少し不安そうな顔をして、あたしを真正面から見つめる。

そしてそう聞かれてふいに脳裏に過るのは、何故か、高桐先生の顔。

その時にまた、高桐先生の優しい顔が浮かんで…。

だけどあたしは首を横に振ると、言った。



「…な、ないない。あるわけないでしょ」

「そっか。ならいいんだ」

「…」



ヒトシ君は安心したようにそう言うと、目の前のお肉を堪能する。

凄くオシャレなレストランで、店内はカップルが多い。

…それなのに、今ここで高桐先生を思い出すなんて、あたしってどうかしてるよな…。

そんなことを思いながらも、だけどそのあともまた考えてしまう。

…高桐先生も、こういうレストラン。来たことあるのかな。

なんて。あたしはずっと、そんなことを考えては、やっぱり高桐先生のことが頭から離れなかった…。
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