一途な御曹司に愛されすぎてます
「さあ、教会へ行きましょう。ステンドグラスもパイプオルガンも祭壇もすべてアンティークで、とても雰囲気がいいんです」


 彼が促すように私の手を取った。

 紳士的にエスコートしてくれているだけだと頭でわかっていても、触れられている部分の神経が異常なほど敏感になっている。


 彼の大きな手の感触や温かさが、さざ波みたいにゆっくりと私の全身に広がっていった。

 私の領域に踏み込まれるようなその感覚は、決して不快ではなくて、照れ臭さや緊張が入り混じった複雑な昂ぶりを感じる。


 つまり簡単に言えば、私は彼に触れられてすごくドキドキしているんだ。

 そして、そんな風に感じる自分もけっこう悪くないって思っている……。


 庭を吹き抜ける心地良い風が、彼が身に纏うフレグランスをふわりと匂い立たせた。

 自然の草木の香りの中にほんのり漂うスパイシーで洗練された匂いが、男らしくて艶っぽい彼の印象にとても似合っている。


 彼の香りで胸がいっぱいになって、それが動悸と相まってますます苦しい。

 そしてますます、惹かれてしまう。


 明るい日差しの下の綺麗な横顔と、彼の掌の感触。低く耳触りの良い声と、自分の胸の鼓動。彼の指先から伝わる体温と、自分の頬の熱さ。

 どうしよう。私の五感のすべてを刺激する彼の存在が、どんどん私の中で大きくなっていく。

 ヒールの下の土を踏みしめながら、私は自分の中に生じた迷いを噛みしめていた。




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