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 夢の中で、私は階上さんとダンスを踊っていた。


 ダンス会場はホテルのロビー。
 煌びやかなシャンデリアの明かりを受けてキラキラ光るガラスの靴を履いた私の両足が、大理石の床を滑らかに移動する。


 ダンスなんて一度も踊ったこともないけれど、大丈夫。
 だって私と一緒に踊っているのは階上さんで、彼は王子様なのだから。

 彼なら私をリードしてくれる。彼となら、私は踊れる。


 優雅で華やかな音楽に合わせて翻るドレスは羽が生えたように軽くて、私は、魔法にかかったみたいに楽しく踊り続けた。


 この広い世界で私が見つめるのは彼だけで、彼が見つめているのも私だけ。

 飛ぶように過ぎ去る時間を気にすることもなく、私は幸福感に満ち足りて、踊って踊って笑い続けて、そして……。

 ふと気がつけば、ひとりぼっちだった。


 たしかに目の前にいたはずの階上さんは幻のように消え失せて、もうどこにもいない。

 明りの消えた空っぽのロビーで立ち尽くす私の足にガラスの靴はなく、汚れた素足のまま呆然とする耳の奥に、いつか聞いた冷たい声が何度も何度もこだまする。


『あなたはうちの嫁に相応しくありません――……』

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