一途な御曹司に愛されすぎてます
エピローグ
 八月中旬。早朝の高原は夏の盛りの日差しの強さと、吹き抜ける風の涼しさが混じり合う。


 澄んだ光が空の青さと地面の緑を際立たせる中、私は悠希さんと一緒に、クラシカルなオープンタイプの馬車に揺られてホテル周辺を巡っていた。


「キミの意見を参考にしてこの馬車を導入したんだ。結婚式にも利用できるし、一般客にも大好評だよ」


 満足そうな悠希さんの言う通り、白馬二頭立ての木造馬車は派手な装飾がない分、気品がある。

 なかなか乗り心地もいいし、なんといっても自動車とは違う非日常感を味わえるのがいい。

 古城ホテルの麗しい姿の効果もあって、気分はすっかりお姫様。

 こうして彼と一緒に馬車に揺られる日がくるのを、ずっと楽しみにしていたんだ。


 あれから遠距離恋愛になった私たちは暇さえあれば連絡を取り合い、会えない寂しさを慰め合う日々だった。

 なにしろ悠希さんの仕事のスケジュールがいっぱいなもので、週末もぜんぜん予定が合わない。

 どうにかお互いの夏休みを利用して、やっとのことでこの古城ホテルで落ち合うことができた。


 部屋は悠希さんがまたロイヤルスイートを手配してくれたおかげで、お世話になったあのバトラーさんと感動の再会を果たせたし。

 バトラーさんが満面の笑顔で「矢島様、お帰りなさいませ」と挨拶してくれたときは、つい涙ぐんでしまった。

 もう二度とこのホテルを訪れることはないと思っていたから、感慨もひとしおだ。
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