しばらくの間、私は借りてきた猫のように部屋の中でおとなしくしていた。

 予定では夕食までの時間を利用してホテル内を歩いて回ったり、庭を散歩してみるつもりだったけれど、とてもそんな気分になれない。


 なんだか夢の中にいるような気分でボーッと椅子に座り込んでいたら、扉をノックする音が聞こえた。

 誰だろうと思って扉を開けたら、夕刊を乗せたシルバートレイを持った初老のバトラーさんが極上の笑顔で立っていて、『あ、これってやっぱり夢じゃないんだ』と現実に立ち返った。


 ということは、七時になったら専務さんが迎えに来る。とにかく支度だけは整えておかないと!

 夕刊を受け取ってようやく現実に対応し始めた私は、まだ荷解きしていないキャリーバッグに飛びつき、衣服や化粧品の類を慌てて引っ張り出した。

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