女探偵アマネの事件簿(上)
黒の貴公子
アマネとウィルが住んでいるアパートは、建物の間に挟まれるように立っており縦に長い。

元々はアマネの叔父がここの管理人だったが、アマネが来る前に亡くなってしまい。住む所を提供する代わりに、アマネがアパートの管理人になるという契約を結んでいた。

つまり、今このアパートの所有権は彼女にあり、ウィルは彼女から部屋を借りている状態である。

(家事一切を引き受けてるから、家賃は殆ど払わないですんでるのが救いだな)

何しろ探偵も助手も、収入が不安定なので、依頼が入った日しか収入を得られない。

(事件と聞けば何でも首を突っ込まないのはいいけど、殺人事件の時はやたら張り切るよな)

しかし幸いと言うべきか、アマネには事件を呼び寄せる才能はないらしい。彼女いるところに事件ありなんて展開になったら、死人が何人でるのかと恐ろしい。

アマネが自分から首を突っ込みに行かない限りは、そうそう危ない目にあったりはしないのだ。


アパートを下まで降り、扉を開けて外へ出る。もう日も傾く時間帯で、ガス灯に明かりがともる。

「なぁ、例の怪盗の予告状で確か怪盗が現れるのは明日の夜だろ?何で今から行くんだ?」

「事前に調べられるものは調べておきたいんですよ。警察の配置や武器の数など。当日ですと、警察の方々が動き回るのでこちらもやりにくいんです」

「なるほど」

下調べと分かり、ウィルは納得したように頷く。興味がないと言っていたが、アマネはやると決めたらとことんやる派だ。

(こりゃ怪盗さん。アマネ自ら捕まえそうだな)

探偵の仕事は犯人を捕まえることではなく、真実を暴くことではあるのだが。回りの動きが遅いと、自分から犯人を捕縛してしまうことが多々あった。

(何だっけ?からて……だっけ?あれ?じゅうどう?だか何だかをやってたんだよな。確かなぎなた?って武器を使って)

色々と混ざっているが、ウィルはアマネがそれなりに強いことは知っている。

(でもな、アマネ自身のことはあんまり話してくれないんだよな)

どんな所で、どんな家族に育てられ生きてきたのか。それを知れるほど、まだ二人の関係は近くはない。

「ウィル」

「ん?」

「着きましたが。いつまで顔の体操をしているのですか?」

いつの間にかこちらを振り返っていたアマネに、ウィルは両頬を押さえる。どうやら百面相していたらしい。

「お、おぉ。着いたか!」

「声が裏返ってますよ」

それだけ言うと、ロンドン塔の警備員に話しかけた。
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