7・2 の憂鬱
「おやすみなさい・・・・スイス、気をつけて行ってきてくださいね」
わたしの返事に、戸倉さんは《ありがとう》と言って、今日の会話は終了した。
電話を切ると、わたし一人きりの部屋は途端に音が消えた。
その静けさを、わたしはずっと心地いいと感じていた。
わたしは大勢でいるよりも一人の方が落ち着けて、好んで一人になることが多かったから。
なのに、ときどき、妙な不安が過ることもあった。
たとえば、7月2日みたいに。
前半後半どちらにも入れてもらえない誕生日は、戸倉さんの言うように、わたしのコンプレックスだったのかもしれない。
大勢に混じれない、グループに加われない、どこか ”他人と違う” という部分に、劣等感を持っていたのだ。
けれど・・・
今は、それも薄まっているような気がしていた。
だって、こんなにも戸倉さんの存在が大きいから。
会えないときにだって、わたしの背中を押してくれるほどに、わたしの中に深く棲みついているから。
「頑張ろう・・・・」
わたしは、通話を終えたばかりの携帯を指でなぞりながら、呟いた。
遠い空の下で頑張っている恋人に想いを馳せながら、ひそやかに誓った、
そんな一人きりの夜だった。
一人きりの夜【番外編】(完)