7・2 の憂鬱




「おやすみなさい・・・・スイス、気をつけて行ってきてくださいね」

わたしの返事に、戸倉さんは《ありがとう》と言って、今日の会話は終了した。



電話を切ると、わたし一人きりの部屋は途端に音が消えた。

その静けさを、わたしはずっと心地いいと感じていた。
わたしは大勢でいるよりも一人の方が落ち着けて、好んで一人になることが多かったから。


なのに、ときどき、妙な不安が過ることもあった。


たとえば、7月2日みたいに。

前半後半どちらにも入れてもらえない誕生日は、戸倉さんの言うように、わたしのコンプレックスだったのかもしれない。

大勢に混じれない、グループに加われない、どこか ”他人と違う” という部分に、劣等感を持っていたのだ。


けれど・・・

今は、それも薄まっているような気がしていた。


だって、こんなにも戸倉さんの存在が大きいから。

会えないときにだって、わたしの背中を押してくれるほどに、わたしの中に深く棲みついているから。



「頑張ろう・・・・」

わたしは、通話を終えたばかりの携帯を指でなぞりながら、呟いた。




遠い空の下で頑張っている恋人に想いを馳せながら、ひそやかに誓った、

そんな一人きりの夜だった。











一人きりの夜【番外編】(完)




< 122 / 143 >

この作品をシェア

pagetop