7・2 の憂鬱
《帰ったら、覚悟してくれる?一晩中寝かせてあげられないから》
甘くささやく恋人の声に返事する前に、その朝は目が覚めた。
エアコンが消えている部屋はもうすでに暑さが広がっていて、わたしは時刻を確認してから軽くシャワーを浴びた。
まもなく秋の足音が聞こえてくる時期なのに、まだまだ夏の気配が立ち去ってくれない。
わたしは身支度をととのえながら、ふと、夢の中の恋人を思い出した。
遠くヨーロッパに出張中の彼とは毎日電話していたけれど、ここ二日間は話せていなかったのだ。
それで、あんな夢を見たのだろうか・・・
夢の中で、彼はわたしの頭をなでて、髪をひとふさ取って愛しげに弄びながら、首筋に顔を埋めた。
その熱を帯びた唇の感触がやけにリアルで、わたしは夢だったと分かっているのに、顔が火照ってしまいそうだった。
戸倉さん不足なのかな・・・・
毎晩の電話だって、直接触れ合うことはできないのだから。
圧倒的に彼が足りていないのだ。
けれどそれは向こうも同じで、彼は電話のたびに《はやく白河に会いたい》《抱きたいよ》と口にしていた。
まだ彼との時間が多くない中で、わたしにはその言葉達がとても扇情的に感じられた。
慣れたように告げてくる戸倉さんとは対照的に、わたしは、まるで中学生のように、いつもどぎまぎしてしまう。
戸倉さんは、わたしがそんな反応を示すことを承知で甘い言葉を投げてくるのだ。
そしてそれを楽しんでる様子に、わたしは時折、小さく悔しがっていた。