7・2 の憂鬱
人を好きになったことが、なかったわけじゃない。
集団でどうこうするのが苦手だっただけで、一対一の恋愛ごとは平均的に経験してきたのだから。
でもなぜか、戸倉さんに対しては、その経験が活かされなかったみたいで。
信号が青に変わって、周りの人がいっせいに歩きだした。
その流れに逆らわないよう、息を整えながらわたしも一歩ずつ進むけれど、気持ちは、前を向くことができなかった。
『仕事以外では、なるべく控えた方がいいかと・・・』
『戸倉さんは気にしなくても、わたしは気になるんです!』
・・・あんなことを言い放ったあとに、好きだなんて気付いても・・・・もう遅いわよね。
さっき、わたしからすぐに目を逸らした戸倉さん。
優しい戸倉さんにそんな風に振る舞われるなんて、きっと、もう、愛想つかされたんだろうな・・・・
あんなに可愛がってもらっていたのに、一方的に拒否してしまったのだから、愛想つかされても仕方ないけれど。
でも、もっとはやく自分の気持ちに気付けていたら―――――――――
帰り道、混雑する地下鉄に揺られながら、わたしはそんなことを考えずにはいられなかった。