7・2 の憂鬱
「昨日決まったばかりなのに、もう白河の耳にまで入ってるなんてびっくりだな」
笑って話す戸倉さんを、まっすぐ見ることができなかった。
「誰から聞いたの?」
戸倉さんは明るく訊いてくる。
胸のバクバクが、いつのまにか、みぞおちのズキズキする痛みに変わっていた。
まるで、戸倉さんはヨーロッパ勤務になるのを心待ちにしてるような、ちょっと高めのテンションだ。
反してわたしは、気分の急降下に拍車がかかる。
ああ・・・・やっぱり戸倉さんはいなくなってしまうんだ。
そして、それを、わたしよりも先に松本さんに話していたんだ・・・・
そう思うと、みぞおちの不快感がいっそう増していくようだった。
「白河?」
戸倉さんのこちらを窺うような声に、わたしはハッとして、意識の手綱を取った。
「あの、松本さんに・・・、松本さんに、さっき電話で聞きました」
「松本?ああ、そういえば松本も昨日あの場にいたっけ」
若干不思議そうな顔をした戸倉さんだったけど、すぐに思い出したように呟いた。
え・・・・?戸倉さんが松本さんに教えたわけじゃないの?
みぞおちの痛みが、微かにやわらいだ気がした。