極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
6
ユジェナ侯爵に手紙を出してから十日が経った日の朝食後。

家令からユジェナ侯爵訪問の知らせがもたらされた。
二日前に王都を出ていて、明日中にはこの館に着くと言う。

(やっと来るのね!)

反応の鈍さにやきもきしていたけれど、約束の日まであと一週間ある。
どうやらギリギリ間に合いそうだ。

ホッとした気持ちと、ユジェナ侯爵との対面に対する緊張。半々の気持ちになりながらも、家令にはいつもの無表情でゆっくりと頷いて見せた。

「分かったわ」
「お出迎えの準備は如何なさいますか?」
「あなたに任せます」
「かしこまりました」

家令は礼儀正しく頭を下げる。

「義姉はどうしているかしら?」

言い争った日以来、マグダレーナと会っていなかった。
そう広くない館なのに、偶然すれ違う事もない。
怒っているのか、悲しんでいるのか分からないけれど、マグダレーナに避けられているのは確実だ。

「最近は客間で過ごす事が多く、見たところ何か調べ物をされているようです」

「調べ物を……何かしら?」

「申し訳ありません。内容までは把握しておりません」

「いいわ。でもユジェナ侯爵の事は、まだ義姉に伝えないで」

「はい……他に御用はございますか?」

「特にないわ」


(考えてみれば、この人の顔を見るのもあと少しなのね)

そんな事を考えながら家令の顔を見る。
今まで気にした事も無かったけれど、意外に整った顔をしていた。

シェールよりも明るい色味の金の髪。琥珀色の瞳。派手さはないけれどバランス良く整った目鼻立ち。肌は艶やかな象牙色だ。

話し方や仕草が妙に落ち着いているから自分よりもずっと年上だろうと思っていたけれど、実はそう変わらないのかもしれない。

だとすれば今後の話し相手として良いかもしれない。
やはり年が近い方が感覚が合うし、家令と親しくすればこの館で過ごしやすくなるはず。



家令が部屋から出て行くと、シェールは机に向かい手紙を書き始めた。
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