極上な王子は新妻を一途な愛で独占する
8
田園風景が続く田舎道。
ガタゴトと音を立てて進んでいた荷馬車が止まると、荷台から若い女性が軽やかに飛び降りた。
地面に着地した女性は、荷馬車の持ち主に明るい笑顔を向けた。

「おじいさん、乗せてくれてありがとうございました! とても助かったわ」

明るく温かみを感じる声。
荷馬車の持ち主の老人は微笑んだあと、心配そうに顔を曇らせた。

「構わないよ。それよりそこの町で護衛を雇うといい。あんたみたいな若い女性のひとり旅はとても危険だ」

「はい、そうします。心配してくれてありがとう」

「いや、本当に気を付けて行きなさい。じゃあ元気でな」

「おじいさんも元気で……気を付けて!」


荷馬車が遠ざかっていくのを、元気良く手を振って見送る。
けれど、荷馬車が小さくしか見えなくなると、急に心細くなってしまった。


「護衛……雇いたいけど無理だわ。お金無いし」

この日の為に貯めていたお金は、一昨日財布ごと奪われてしまった。

「この私がスリに遭うなんて……ミシェールよりもマグよりもずっと世間に慣れてるはずなのに……私もまだまだって事ね」

はあ、とため息を吐くと、ぐうとお腹が鳴った。

「……お腹空いた」

一文無しになって早二日。少しだけ持っていた携帯食はとうに尽きている。

「私、このまま行き倒れるんじゃ……やだ、そんなの。カレルに会えなくなっちゃう!」

絶対に再会すると約束したのだ。
一度リント村に戻って権利書を皆に渡したら、直ぐにサンレームに戻る。
それでカレルに会えるのか分からないけれど、彼との唯一の接点なのだ。
弱音を吐いている場合ではない。

「とにかくそこの町に入ろう。もしかしたらさっきのおじいさんみたいな、親切な人と出会えるかもしれないし」

町に向かって歩き出す。
空腹を紛らわせようと水を飲もうとしたけれど、水も尽きたようだ。

流石に心が折れそうだ。

「あー、お腹すいた、喉が渇いた!」

気を紛らわす為に叫んでみる。

すると、呆れたような笑い声が直ぐ近くから聞こえて来た。

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