千一夜物語

影で蠢く者

小さな髑髏たちは斬ると霧散して消えてしまう。

首を斬られたがしゃどくろは落ちた頭を両手で拾って捩じるようにして再び装着すると、大きな手を振り上げて黎を叩き潰そうとした。

黎はそれを華麗に避けながら、鼻の頭に皺を寄せた。


「弱いが数が多いな」


「助太刀いたします!」


背後から聞こえた声に肩越しに振り返った黎は、神聖なる力が込められた弓矢を髑髏に向けて放つ神羅を見て夜叉の仮面の下でほくそ笑んでいた。


「ますます好みだ」


強い女は好きだ。

そういった気性の女が最初は抵抗するものの最終的に身を委ねてくる様は黎の支配欲を煽り、滾らせる。


神羅の放つ弓は髑髏たちを光に包み込み、まるで昇華させるようにして霧散させる。

だがいよいよ飽きてきた黎は、天叢雲を人差し指でこつんと弾いて命じた。


「飽きてきた。そろそろやるぞ、少しは実力を出せ」


『ふん、我の本領に震え上がるなよ』


――大きく跳躍した黎はがしゃどくろの頭上に着地して両手で天叢雲を持って妖気を与えると、思い切り突き刺した。


するとぶわっとどす黒い炎が噴き出して、がしゃどくろに内包されて取り込まれた魂たちが溶けるようにして空へと消えて行く。


「浄化…したのですね」


神羅は手を合わせてがしゃどくろに取り込まれた魂たちが安らげるように祈った。

黎は空になってもう動かなくなったがしゃどくろの頭から刀を抜くと、軽く足で蹴った。

脆い音を立ててがしゃどくろが崩れ、刀を鞘に収めた黎は肩を竦めて一蹴。


「つまらんものを斬ってしまった」


「お主のおかげです。ありがとう」


神羅が頭を下げると、黎は夜叉の仮面を取ってにっこり。


「じゃあ礼に齧らせろ」


食うことばかり。

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