とある複合商業施設にある会員制ワインバーのカウンターで、閑はグラスを傾けながら、ため息をついていた。高層階にあるため、窓の外は東京の夜景を一望できるレベルの、すばらしい景色が広がっているが、閑には関係ない。
 ただひとりで静かに飲みたかったから、馴染みのここを選んだだけ。いつもならビールだが、酔いたい気分だった。

「なんだ、景気が悪いな。俺の前でため息はやめろ」

 そう閑に言い放ったのは、切れ長で少しつり上がった目が印象的な、精悍な黒髪の男。長身だが優しい雰囲気の閑とは雰囲気が違う。

「瑞樹……ため息くらい自由につかせて」

 閑は苦笑して、肩をすくめた。

 隣に座る男は、年は閑と同い年の二十九になったばかり。名は南条瑞樹(なんじょうみずき)といい、幼馴染のひとりである。
 実家は歴史ある金融系のグループ企業であり、彼は本家の御曹司だった。わがままで俺様だが、不思議と嫌われない、人を引き付ける魅力のようなものを持つ男だった。