明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
終章
それから月日は流れ、章子さんは女の子をこの世に誕生させた。


章子さんは一ノ瀬さんと結婚してから笑顔が増えた。

私より一足早く出産した彼女は、一ノ瀬さんと四苦八苦しながら育児をこなし、その知識を授けてくれる。


今日は、まだ家からなかなか出られない彼女の気分転換になればと、一ノ瀬家にお邪魔している。

章子さんは嘘をついて私を傷つけたからか、最初は話すときもひどく遠慮がちだった。

だけど、出産や育児のことを話し合っているうちにすっかり打ち解け、今では仲のいい友達だ。


「ずっと見てても飽きないわね。かわいい」

「そうね。でも昼夜関係なく泣くから、出産してしばらくは女中に全部任せてできるだけ体を休めるのよ。そうでないと倒れてしまうわ」


彼女は腕に静子(しずこ)ちゃんを抱き、私に念を押す。

何度も何度も同じことを繰り返すので、これはおそらく行基さんが言わせているに違いないと思っている。

彼からも『絶対にしばらく家のことはするな』と釘を刺されているし。
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