明治蜜恋ロマン~御曹司は初心な新妻を溺愛する~
初子の恋
初子さんが高等小学校を卒業し女学校に通い始めた頃には、一橋家が傾きかけていることがあちらこちらで噂になっていた。


「一橋さんのところ、爵位を返上するらしいわよ。落ちぶれたわね」

「旦那さん、財もたいしてないのに、毎日飲み歩いて有り金をはたくんですって。見栄も大概にしておかないとねぇ。みっともないったらありゃしない」


買い物に行った折に耳にする悪口の数々が、私の心を痛めていた。

父は自業自得だ。だけど、孝義は? 
子爵となるはずの孝義の未来はどうなるの?

このときばかりは私も、弟のことを考えてため息をついた。


そんな生活の中でも、ひとときの息抜きはあった。
初子さんが女中としてではなく姉妹として話しかけてくれるからだ。

今日は、初子さんが女学校の友達に聞いた甘味処に私を誘ってくれた。


「初子さん。私、甘味を食べるようなお金がないの」

「そんなことは気にしなくていいの。あやは学校にも通わず働いているんだから、このくらい平気よ」
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