(なんで、こんなことになっちゃったんだろう)

 前世で地味OLだった杏南(あんな)は転生した異世界で、とんでもなく美麗な男に押し倒されながら、そう自問自答していた。


 最初は軽い気持ちだったのだ。

 隣の空き家には、珍しい植物がたくさんある花園があるのだと聞いた。
 しかもそこには珍しいハーブや食材があるらしい、と近所の学生たちから教えてもらって、是非見に行きたいと思った。

 誰も住んでないのなら、ちらっと覗きにいって、野草化してるハーブを少しぐらいもらってきてもいいかな、くらいの軽い気持ちで屋敷の花園に忍び込んだだけなのだ。


 ──けれど誰もいないはずの、隣の大きな屋敷には男がいた。
 紅い瞳に、艶やかな金色の長い髪を後ろで緩くまとめている、綺麗で……綺麗すぎて、謎めいた男。

 それは真夜中の花園に、ふらりと迷い出た幽霊なんじゃないかと思うほど妖しく見える。

 アンナはその綺麗な男に捕らえられて、不法侵入を問われた。
 そのまま彼の寝室に運ばれて、ベッドに下ろされ押さえ込まれ、上から顔を覗き込まれている。

(私、どうなってしまうんだろう……)

 恐怖と不安と恥ずかしさに赤く染まるアンナの頬を、男は紅い瞳を細めて、するりと撫でる。
 彼の指先は冷たく、少なくともこの状況にパニックになっているアンナよりずっと冷静なのだとアンナは思った。

 表情を消した端正な表情から、唇がゆっくりと笑みの形に変わって行くと、表情は甘さを深め、紅い瞳には誘惑するような色合いが移ろう。

「ああ、いい子だ。逆らうよりは素直に従った方が、お互い嫌な想いをしないで済む……」

 妖艶な獣に捕らわれてしまったように、彼女はもう指先一つすら動かすことができない。
 彼はそんなアンナを満足げに見下ろすと、そっと彼女の肉感的な唇を親指で触れる。

 思わずヒクンと体を震わせた彼女には一切躊躇せず、鼻先が触れるほど近くに顔を寄せ……。


 艶めいた表情のまま彼は、彼女の唇に、その意地の悪そうな唇を押し付けた。

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