「……なるほど、そういうわけで人が増えたのか」

 それまでは閑散としていた店に人が増えていることにびっくりした顔をした兄は、エイブラムの顔を見てニヤリと笑った。

「いい腕してるな。こんなカフェなどやめて、コールドウェル商会で仕事をしないか?」
 カウンターで紅茶を入れているエイブラムにそんな声を掛けるから、アンナは兄を睨み付ける。

「……うちの最強ホール係を持って行かないでください。もちろん男爵の遺産も渡しませんからねっ」
 エイブラムは優秀なのだ。持っていかれては堪らない。

 パトリックを睨み付けると、兄は肩を竦めて小さく笑う。

 彼の目の前には、男子学生を店に集めるきっかけになったBLTサンドウィッチが載っていた皿が、すでに完食された状態になっている。

 それを引き下げながら、アンナは小さくガッツポーズを取った。
 どうやら味にうるさい兄にも気に入ってもらえたらしい。

「しかし茶会の定番であるサンドウィッチなど、腹の足しにもならんと思っていたが、これは結構腹に溜まるな」

「そうそう、だから、男子学生が来てくれるようになって、それをきっかけに、女性も遊びに来るようになったんですよ。やっぱり男子向きのメニューを開発してよかったなあ……」

 男子学生たちは、将来性有望だからか、自然な出会いを求めて、近隣の年頃の女性たちも店に来るようになっている。
 エイブラムの営業が店の状況を一転させたのだ。

 アンナが両手を打ち付けるように合わせ、にこにこと上機嫌の笑みを浮かべていると、兄とエイブラムは顔を見合わせて苦笑を浮かべた。

 もちろん、客の定着に関してはメニューの工夫などの努力もあるだろうが、美貌の男爵未亡人が自ら作る昼食を出す店、として噂を流したことが原因で客が集まっている、などということはアンナは全く気付いてない。

 この世界は男性上位だ。男性が動かなければ経済は動かないのだ。
 そして貴族の女性がこういった店で給仕をしているなどと言うことはまずありえない。
 それが若くて美貌な未亡人となれば、それはいろんな意味で男性の興味を引く。

 本人が無自覚な間に、すっかりカフェの看板未亡人にされていたアンナの事が近隣で噂になる頃には、この店の裏メニューについても『知る人ぞ知る』レベル程度には有名になっていた。

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