昼にカフェで見た時より、宵闇の中での彼の姿はこの世の物とは思えないくらい、ぞっとする程綺麗だ。

 ただ直接手も触れたし、別に少し冷たいなとは思ったけど、死んでいる人ほど冷たいわけでもなかったと思うし……。などとアンナがあれこれ考えて跳ね上がる心臓の上を自分の手のひらでぎゅっと押さえつけていると、彼はゆっくりとスープの匙を口元に運びながら、味を確かめるようにゆっくりと瞳を閉じた。

「なるほどな。確かに旨いし、近い感じの味にはなっているが……何かが足りないようだな」

 どうやら彼にとってはアンナの問いより、アンナの持ってきたスープの方が大事らしい。
 まあ、そうだろうなと肩を竦めながらアンナは彼の言葉の続きを待った。

「まあ、まずは一回目としては上々の出来だ。あの懐かしい……優しい味を思い出す」
 彼の言葉にホッとして笑みを浮かべながら視線を上げると、何故か彼の手がアンナの頬を撫でた。

「え……?」
 どこか甘さを帯びた瞳が柔らかく細められて、頬を撫でた手はそのまま彼女の顎を捕らえる。

「──っ」
 次の瞬間、唇が触れると、ゆっくりと彼女の唇を食むようにして数度啄む。

(な、なんで?)
 唇を塞がれたせいで言葉を発することすらできない。そんな彼女の動揺など関知しないように、アンナの唇を彼の舌が軽くノックするようにして中に入りたいとねだる。

(別に……意味なんてないよね。多分また……情報をくれるってコトなんだろうし)

 彼は事務的に情報のやりとりをしようとこんなことをしているのだろう。
 勝手にドキドキしてしまった鼓動と、相反するなんだか馬鹿にされたみたいで切なく感じる気持ち。

 それでもやっぱり彼のキスは上手で、怯えて口内で縮こまる彼女のそれを柔らかく刺激すると、そっと舌を絡められて、気づくと力が抜けてしまっていた。

(……仕事、なんだから)

 夜の花園で人目を忍ぶように会って、こうしてするのは恋人同士のようなキスだけど、そういう目的ではない……。

 手を触れ合わせるだけでは足りない部分を、こうしてもっと多くの情報を得られる方法で手に入れさせようと彼は思っているだけなのだ。

 それでも経験値が低すぎて、冷静でいろと言われても正直難しい。

 単なる情報伝達の方法に過ぎないのだから、と改めて内心言い聞かせて、勝手にじわじわと熱を上げる体を必死で誤魔化しながら、アンナは脳裏に浮かんだ情報を必死に取り込もうとした。

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