それからアンナは時間があれば隣の家を訪ね、図書室にある資料を読んだ。

 そして実際の温室の植物を見比べて行き、色んな素材を持ち帰り実際に調理に使ってみている。
 どうやら屋敷の中は魔導で管理されているらしく、一度承認を受けてからは、誰もいない時でも、入口と図書室の扉だけは開かれていた。
 ただし、彼の居室にもう一度行ってみようと思ったが、何度向かっても辿りつけず、どうやらそれは魔導でつくった遮蔽があるかららしい。


「あの……レオナール?」
 彼は今、アンナのカフェに来店して、カウンターで静かに本を読んでいる。

 あれ以降、他に用事がない時には彼は昼の賑わいが終わった時間帯にこの店に日参するようになった。そしてアンナは彼の手を取らされて、彼の好みの昼メニューを作らされているのだ。

 【絶対味覚】を使っての特別料理は値段が高いのだけれど、それを毎日平然として払うから、やっぱりこの人はお金持ちなのだろう。

 今の所、店で一番金払いの良い太い客であることは間違いない。

 でも今日は彼の希望の食べ物ではなくて、新メニューを食べてもらっている。
 なので結構な美食家の彼がどう反応するかが気になって、アンナはずっとそわそわしていた。

 新メニューはベーグルサンドの定番だ。
 フレッシュなクリームチーズと、鮭に似た魚を熱燻したスモークサーモンもどきを、もっちりしたベーグルパンで挟んでいる。

 レオナールの屋敷の花園でディルのようなハーブを見つけたので、スモークサーモン作りに挑戦してみた。
 冷燻の温度のキープが難しくて、結果として熱燻になってしまったのだけど。

「……どうですか?」
 言葉を発することも出来ずに、もぐもぐと口を動かしている様子を見てちょっと笑ってしまいそうになる。
 ベーグルは途中で湯をくぐらせて発酵を止めているので、普通のパンと比べてもっちり度合いが半端ないのだ。

「……まあ……悪くない」
 もぐもぐを続けて完全に口の中からサンドウィッチが無くなってから、上品に口元をナプキンで拭って、彼は言葉を発する。

 視線は相変わらず自分で持ってきた魔導書に落ちている。
 でも続いてもう一度残りのサンドに手が伸びているから、きっと美味しい判定が出たのだろう。
 思わずアンナは嬉しくて笑みが零れた。

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