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『想定外、だったそうです。杏南さんの運命は、町で運悪く出会ってしまった男の自殺に巻き込まれる予定ではなく、当然あそこで終わるわけもなかった』
 永村はカリカリと指先で頭を掻いて、小さくため息をついた。

『そういったことを司る神様がいるそうですが、なんらかのトラブルで目を離した隙の出来事だったみたいで』

 ちなみに本来の運命であれば、不撓不屈の精神で立ち直った杏南は、その後カフェ経営を成功させ、ただし結婚も出産もせずに寿命を全うする予定だったのだという。

 子供が生まれる人間の場合、時空を歪ませても生き返らせるという手段を使うらしいのだけれど、杏南の場合、運悪く次世代の誕生はなかった。
 つまり子孫が出来ないため、その場で亡くなっても後世には影響しないと判断されたのだ。

 そしてそのまま運命の輪は回り、彼女は代わりに生まれ変わった先で、前世で得られるだけの利益がもたらされるように配慮されたのだという。


 ──ってそんな説明をされたからと言って、どうしたらいいのだろう。

 何とも言えなくなってしまった。
 だって彼女の頭の中には、アンナとしての人生の記憶もしっかりと根付いているからだ。

 そこに杏南の記憶まで放り込まれて、物凄く混乱している。

『私は自死で貴女を巻き込んでしまいました。贖罪を果たすため、貴女のやり直しをするためのナビゲーターとして、この異世界に生まれ変わりました。私に架された宿命は、貴女の夢をかなえること。その資金も十分に用意させていただきました』

 どうやらこの無茶苦茶な結婚話は、サヴィニャック家の家令エイブラムに転生していた永村によって、必要な利益をアンナに渡すべく計画されていたらしい。

 ちなみに、前世ではさえないおじさんだった永村だが、この世界のエイブラムは男爵家の筆頭家令をしていただけあって、なかなかの渋いイケメンに転生しているのだ。

「と言うわけで、わたくしは、まずはアンナ様のカフェ運営のお手伝いを全力でさせていただきます」
 力強く言ってくれる彼の言葉はありがたい。しかもこの品の良さ、整った容貌ならリアル執事カフェができる。

(美味しいお茶と軽食に、貴族の家の筆頭執事をしてきたエイブラムの接客……。イケル、私、行ける気がするよっ!)

「わかりました。永む……エイブラムはカフェのホール内責任者として雇います!」
「ありがとうございます。粉骨砕身お仕えさせていただきます!」

 そんなわけで杏南の……いや、(そこそこ)美貌の男爵未亡人、アンナ・サヴィニャックによる、夢のカフェ経営がスタートするわけです!

 ……多分。

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