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 がめつい兄を誑かし、何とかお店の経営権を手に入れたアンナはさっそく男爵家の遺産相続の手配をエイブラムに任せたまま、自身は開店させる店の準備を始めていた。

 金と勢いと前世のカフェ経営知識を元に選んだのは、サヴィニャック家からほど近い、平民街と貴族街の境界線の付近。貴族と富裕層が出入りする地域だった。

 その地域で、アンナが手に入れたのは、通りに面しており、落ち着いた街並みにある隠れ家のような小さな屋敷だった。

「お金があるって素晴らしいですね」
 両手を握りしめて、エイブラムに言うと、彼は困ったように笑う。

「……どうしても気に入ったと言って、少々強引に購入を決められましたからね」
 そう、何故か隣の家の持ち主が邪魔をしたらしい。誰も住んでないというのに横暴だ。

 とにかく、手数料を多く払って何とか手に入れた小さな屋敷は、玄関から入ってすぐのところに、客を受け入れるための広くて贅沢なサロンがある。

 そして採光抜群な大きな吹き抜けの窓があり、そのままウッドデッキが置かれた外に出られるようになっている。

 道とウッドデッキの間には、芝生の生えた小さな庭があって、季節の花が咲き乱れている。庭師を入れて雰囲気としてはイングリッシュガーデンをイメージして手を入れてもらった。まあ全部段取りしてくれたのは、エイブラムだが。

「結局お隣は……空き家なのかしら……」

「さあ。相変わらず人の出入りしている様子は見られませんね。近所の人たちからは幽霊屋敷と言われているようですから……」

 隣は大きな屋敷なのだが、入り口からうっそうと木々が茂り、何があるのかすらわからないと、エイブラムはお湯を沸かしながら答える。

 ちなみにこの世界は魔法が使える世界なのだ。なので当然エイブラムも魔導を使ってお湯を沸かしている。

 そしてたまに特殊能力を持っている人間もいる。エイブラムは少し先を見通す能力があるらしい。アンナには味覚に関する特殊能力があった。
 相手に触れることで相手が望む味が分かるという、カフェをやるにはうってつけの能力だ。

 ちなみに兄パトリックには特に能力はない。
 ただ商売と金儲けに関する勘は鋭くて、その予測はほぼ外れることがない。
 これは既に特殊能力に数えてもいいのではないか、とアンナは思っている。

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