いちばん近くて遠い人
8.可愛げのない女
「今日はここだ。」

 見上げたのは騒がしい工事現場。

「あぁ。兄ちゃんまた来たのか。」

 工事をしているおじさんが声を掛けてきて親しげに話す。

「はい。いつもお邪魔してすみません。
 迷惑にならないように見て行きますので。」

「兄ちゃんならいくらでも見てけ〜。
 今日はまたえらくべっぴんさんを連れてきたな。」

 おじさんに頭を下げて「南です。よろしくお願いします」と持つことを許された名刺を……渡すことは諦めた。
 そんな雰囲気ではなかった。

 加賀さんとおじさんは昔からの近所で悪ガキの頃から見てるんだこいつ。と、言わんばかりの仲の良さで話している。
 本当にそうだったかもしれないが………きっと違う。

 肩を突き合わせてヒソヒソ話す内容はうんざりする内容。

 おじさんは小指を軽くあげて聞く。
「こっちは今、どうだ?」「まぁ相変わらずです」「何人?」「7、8人?」「こりゃ日替わりか〜。羨ましい」「村さんだって」なんてことを話している。

 ちなみに丸聞こえですよーと教えてあげた方がいいのか。
 聞こえないふりをして立っていると手招きされた。

「今日は村さんに会えればご挨拶と、後は周辺を見に来ただけだ。」

「なんだ。中も見てけ。」

 おじさんこと村さんに誘われても加賀さんは丁重にお断りした。

「今日はヘルメットも持ってきてませんし、南は新米アシスタントなので、まずは周辺から。」

「そうか。美人の姉ちゃん。
 また来なよ。兄ちゃんに首切られんな。」

 う………。
 この人、人の本質を見抜いてる。

 苦笑いを浮かべ頷くと加賀さんと一礼してその場を後にした。







< 25 / 129 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop