花瓶─狂気の恋─
雑草刈り

千紗は白い空間の中で立っていた。
床もなく壁もない、世界が真っ白だった。


「へ?ここ...どこ?」


辺りをキョロキョロと見回してみるが、他には何も無い。何故自分がここにいるのか、ここに来る前まで何をしていたのか、頭の中の記憶はぼんやりとしてハッキリとした姿を捉えることは出来なかった。

すると目の前に黒い人影が現れた。
印象としては黒い火で作られた人。その人物はゆっくりと千紗へ近付く。

その人物は何かを呟いていた。何を言っているのか分からなかったが、千紗は直感的にその言葉は自分に対しての怨念混じりの言葉だと感じた。


「い、いや!来ないでよ!!」


千紗は後ろへ下がろうとするが、身体は動かない。金縛りにあったかのようにピクピクと身体は痙攣するしかできなかった。

その黒い人物は千紗の首元へ両手を伸ばした。
両手は千紗の首を包むように掴み、徐々に力を加えていく。


「あっ...あが....た、たすけ...」


息が出来なく苦しい。子供の頃、お遊びで自分の首を絞めてみたりしたことを思い出すが、他人にやられる時ほど怖く苦しいものは無いと悟った。
黒い人物は千紗の首を絞めながらもまだ呟く。
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