「あほうじゃのう。オレを誰じゃあ思うちょるんじゃ。桜ノ杜神社の後継者ぞ」


帰り道は航ちゃんがうちをおんぶしてくれることになった。


花恋の手を引き、手持ち灯篭で夜道を照らしながら先頭を歩くジローちゃんが「いつものが始まったのう」と笑い飛ばすと、航ちゃんはうちを背負い直して続けた。


「雪桜さんから戻ったら、ねーちゃんが陽向待っちょるど言うけえ。じゃけど境内のどこ探してもおらんし。拝殿の東階段で見つけたスマホは陽向のじゃし。じゃけど、やっぱし本人はおらん」


航ちゃんの背中に右のほっぺたをぺったりくっつけて、そおっと目を閉じる。


「どーこ行きよったんじゃろう、おかしいのう、て首傾げちょったところに、ジローが長谷山とアンディ連れて来るじゃろう」


どっくん、どっくん、どっくん。


うちを背負って歩いちょるせいじゃろ。


小走りのような速度の鼓動と、弾む息と航ちゃんの声が背中を隔てて耳の奥とほっぺたに響いてくる。


「なんじゃなんじゃ思うたら、花恋が居なくなった言うじゃろう。陽向はスマホ残して消えてしもうたし。こらぁもう、オレは天才じゃけえ。ピーンときたとゆうわけじゃ」


ふわふわ綿毛みたいな航ちゃんの口調と一定のリズムを刻む鼓動が妙に心地ええけ。


これだけ心配掛けておきながら不謹慎にも眠くなってきてしまう。


「ちんまい頃も1度だけ、陽向と花恋が居なくなったゆうて大騒ぎになったことがあったじゃろう。ふと、のう。あの日のことを思い出したんじゃ」


ふわりふわりと微睡みの中へ片足を突っ込みかけて、


「ああ! そういえばあったのう、そげなこと。確かあれは……夕陽おばちゃんの――」


ジローちゃんの声に耳を傾けていた時じゃった。


からん。


またあの音が聞こえて、断片的にその光景が瞼の裏側でまるでスライドショーのように流れた。


風に揺れる、お社の鈴紐。


鈴なりにつるされちょる絵馬が、カラコロぶつかり合う音。


そして、開かれる、お社の扉。


「……えっ」


うちはパッと目を開けて、航ちゃんの背中に乗ったまま、首だけを捻って後ろを振り返った。