『うちなあ、決めちょったんじゃ。あんたがまだうちのお腹におる時から。この子が男でも女でも絶対、この名前にするんじゃって』


陽向。ひなた。ヒナタ。


あの頃はまだ、自分の名前が好きじゃなかった。


じゃって、男の子なんか女の子なんか分かりにくうて、中性的な感じで。


じゃけえ、幼なじみの花恋がうらやましかった。


花恋。かれん。カレン。


字に書いても、声に出して読んでみても、響き自体がもう、ザ・オンナノコって感じで。


ほいで、いっぺんだけ、お母さんに聞いたことがある。


『なしてじゃ。なして陽向ゆう名前にしよったん?』


ほいたらお母さん、桜の花びらみたいにそらあ綺麗に笑うて、教えてくれたっけのう。


『そがいなん、決まっておろう。陽向ゆうんはのう……』


それが、お母さんとの最後の会話じゃったかのう。


ああ。


もう……忘れてしまいそうじゃ。









街路樹の若葉の隙間からほろほろとこぼれる、やわらかな春の陽射し。


光のシャワーを浴びながら、真っ白なネコが長いしっぽを左右にしなりとくねらせて、うちらの前を優雅に横切って行きおる。


白ネコより真っ白な雲が青空に溶け込んで、パステルカラーの上空。


気持ちのええ4月の風がひんやりと頬をなでる。


「のう、陽向」


「なんじゃあ」


もう、今日明日に開花してもおかしくないほどぷっくりと太った、淡いピンク色の蕾たち。


学校近くにある桜並木道に差し掛かった時、花恋が唐突に聞いてきおった。


「陽向的に、どっちじゃ思う?」