初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
十三
 アレクサンドラは、社交界デビューとなる国王陛下との正式な謁見の日取りが決まっても、所領内の教会へ通うことを止めようとしなかった。
 所領内の教会には、アレクサンドラ達が子供の頃からお世話になっていた老神父の補佐と言う形で、ちょうど若い神父が派遣されてきたこともあり、老神父はいつも黙して座り続けるアレクサンドラの告解を若いフェルナンド神父に任せるようになっていた。
 毎日のように教会を訪れ、告解室に入るが、実際には未だ罪を犯していないアレクサンドラには、懺悔することは色々あったとしても、一番懺悔したいことを懺悔することが出来なかった。
「哀れな神の子羊よ。こうして毎日、あなたをこの教会に向かわせるほどの苦しみを話してみる気にはまだなりませんか?」
 神父に問いかけられ、アレクサンドラの瞳からポロポロと涙が零れた。
「この告解室の中で話されたことは、例えどのようなことがあっても第三者に知られる可能性はありません。例え、国王陛下に脅され、処刑されたとしても、私たち聖職者は信者の秘密を胸に抱えたまま店に召される道を選びます」
 フェルナンド神父の言葉に、アレクサンドラはアレクシスに会ったことのないフェルナンド神父になら、多少話を脚色して話しても良いのではないかと思いながらも、やはり話すことはできなかった。
「私の告解の内容を神父はバーソロミュー神父と共有なさるのですか?」
 やっと口をついて出たのは、そんなつまらない問いだった。
「いいえ。私たちは、例え聖職者同士であっても、信者の告解の内容を共有することは致しません。ただ、内容が信者自身の生死にかかわるような一大事の場合、私のような若年者がバーソロミュー神父のような経験豊富な方にご相談することはありますが、信者のお名前を出したり、告解の内容をお話したりすることはありません。ですから、なにも心配される必要はありません」
 フェルナンド神父の言葉に、アレクサンドラは勇気づけられながらも言葉は、やはり喉の奥に詰まったようで出てこなかった。
「貴重なお時間をありがとうございました」
 アレクサンドラは言うと、告解室を後にし、ライラを伴って教会を後にした。
 その憂いに満ちた横顔に、フェルナンド神父は聖職者としてはあるまじき事と知りながらも、アレクサンドラの笑顔を見たいと、彼女の不安を取り除き、その顔に笑みを取り戻してみたいと、心ひそかに想いを寄せてしまうのだった。

☆☆☆

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