初恋の君に真紅の薔薇の花束を・・・
十一
  今度こそ、自分の恋を応援してくれるであろう従弟のロベルトから届けられた手紙には、『朝食前に必ずお読み下さい』という添え書きが付いていた。その筆跡から、不老不死の魔物のたぐいではないかと思われる、出会った頃からヨボヨボヨ老人なのに、未だに現役でロベルトの侍従長をしている、絶対に逆らわない方がよいタイプの人間がロベルトに命じられて書いたものだと察せられた。
 手紙の内容は、正直、アントニウスが想像もしていなかった内容だった。
 確かに、時々見かけたジャスティーヌのドレスは他の令嬢ほど豪華でも、奇抜でもなく、どことなく前に見たことがあるような気がする似たデザインの物が多いなと言う程度の理解だったが、ロベルトの手紙を読むと、アーチボルト伯爵家の窮状は想像を絶する状態のようだった。何しろ、国王の甥と言う立場から見ると、アーチボルト伯爵は重臣の誰よりも国王の信頼を受け、公にはただのブリッジ仲間と称して大臣でも政治顧問でも、戦略参謀でもないが、実際のところは国王の懐刀、ブリッジで国王が適当に負けて、それなりの褒美を取らせているものだと勝手に理解していたが、ロベルトの手紙によれば、アーチボルト伯爵がブリッジで国王に買ったことは一度もなく、政治顧問としての正当な報酬も貰わず、代々受け継がれただだっ広い領地と、少ない税収、この税率は国王が定めた最高値を超えなければ、各貴族は自由に所領に置ける税率を定めて良いことになっているが、アーチボルト伯爵家の所領の税率ばかり国に納める税金に気持ち上乗せしているだけで、あとは夫人のアリシアの采配で何とか体裁を保っているというのだ。そのため、異例ではあるが、見合いに際してジャスティーヌとアレクサンドラが舞踏会でロベルトにエスコートされても恥ずかしくないようにと、支度金まで出したとのことだった。
 つまり、今までドレスを作っていないアレクサンドラのドレスを作り、ましてや社交界デビューのための、国王平価との正式な謁見をするための支度に関わる費用、それが捻出できる状態にはなく、それが出来なければ、事実上、アレクシスをアレクサンドラに戻すことが出来ないと言うことになる。
「なんて事だ!」
 アントニウスは呟くと、取りあえずアーチボルト伯爵家を訪ね、アレクサンドラの支度に関わる費用は、すべて自分が負担することを告げなくてはと、急いで食事の席に着いた。

☆☆☆

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