替え玉の王女と天界の王子は密やかに恋をする
婚姻の儀
(大丈夫。何も心配ないわ。
何度も練習したのだから。)

私は自分に言い聞かせる。



高らかな管楽器が吹き鳴らされ、目の前の扉が開いた。
決められた歩き方で前に進みながら、自然と反対側の扉に目が行く。
そこは、私のお相手が出てくる扉。
私はそこにいる人に驚きながら、懸命に平静を装った。
なんと、その人は仮面をつけていたのだから。
そのせいで、参列してる人達もざわめいている。



中央で顔を合わせた私達は、ざわめきの中、ならんで前に進んだ。
誰だろう?
ルーサーさんとマーカスさんは、二人とも金髪だし、背格好も似たような感じだから、どちらかわからない。



司祭の前に立った時...隣の人が仮面を外した気配を感じた。
でも、まだその顔を見ることは出来ない。



「フェルナン・ドゥレ・ヴァリアン...
そなたは、このシャルア・ドゥラ・リゴレットを妻とし、一生を通じ、愛することをここに誓うか?」



(今......フェルナンって言った?)



そんなわけない。
私の聞き違いに決まってる。
私の鼓動は早鐘を打ち出した。



「......はい、誓います。」



今のはフェルナンさんの声に似てる...
でも、そんなこと、あるはずがない。
私...どうにかなってしまったの?
私はますます混乱する。



「シャルア・ドゥラ・リゴレット...そなたは、このフェルナン・ドゥレ・ヴァリアンを夫とし、一生を通じ、愛することをここに誓うか?」



どういうこと?
今、何が起きてるの?
何がなんだかわからなくて、私はパニックに陥っていた。



「シャルア・ドゥラ・リゴレット...答えなさい。」

「え、わ、私...」

混乱し過ぎて、体の震えと涙が止まらない。



「......サキ、大丈夫だ。」

優しく抱き締められ、耳元でそう囁かれて...



(これは夢...?)



そうだ、きっと夢に違いない。
そうじゃなきゃ、こんなことがあるはずないんだから。



「......ち、誓います。」

私は、しゃくりあげながら、どうにかそう答えた。


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