大天使に聖なる口づけを

毎朝の日課どおり。
自分の身支度が終わるとすぐに隣室の父を起こしに向かったエミリアは、扉を軽く叩いてみても中からなんの返答もないことに、首を捻った。

わりと寝起きが良い父は、いつもだったらすぐに、
「やあ、おはようエミリア。今、目が覚めたよ」
と返事をくれるはずなのだが、今日は少し待ってみても返事がない。

おかしいなと思いながら、もう一度叩いてみる。
トントントン。
やはり応答なし。

ひょっとしたら具合でも悪くしているのではないかと、焦ったエミリアは慌てて扉を引き開けた。
しかし、いつもどおりきちんと整頓された寝室のどこにも、父の姿はなかった。

「……お父さん?」
急いで部屋から飛び出し、その時になって初めて、エミリアは階下から話し声がすることに気がついた。

(なんだ。お父さん先に起きてたんだ……)
ホッとしたけれども、何かが心に引っかかる。

父は確かに寝起きは良いが、それは誰かに起こしてもらった場合の話。
一人で起きるとなるとそうはいかない。
だからこそ、結婚してからはずっと母に起こしてもらっていたのだし、母がいなくなってからは、その役をエミリアが引き継いでいた。

(……そのお父さんが一人で起きてる?)
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