大天使に聖なる口づけを
第2章 秘密の任務と憧れの騎士

「エミリア。昨日、何かいいことでもあった?」

翌日、アマンダの店に着くとすぐに、エミリアはフィオナに尋ねられた。
全てを見通しているかのような大きな黒い瞳が、店舗に入ってきたエミリアを、奥の作業部屋から真っ直ぐに見つめてくる。

「オーラがすごく良い色をしてるわ」
フィオナ特有の表現に、隣に座って作業をしていたマチルダは、ふうっと息を吐いた。

「また始まった……」
言い方はあまり友好的ではないが、マチルダはフィオナを快く思っていないわけではない。

その証拠に、フィオナへと若干体を向けながら、
「それで? どこがどんなふうに良いのよ?」
これからドレスになるはずの服地に待ち針を打ちつつ、問いかける。

それは、今まで多くの人間が「気味が悪い」とフィオナを敬遠する様子をずっと目の当たりにしてきたエミリアから見れば、かなり仲のいい関係と言ってもよかった。

フィオナも、マチルダに少しは心を許しているらしく、
「そうね……いつもの白い光に黄色が混じって……」
などと具体的な解説を始める。

「ふーん」
ちゃんと聞いているのかいないのか。
膝の上では着々と仕事を進めるマチルダに遅れをとらないようにと、エミリアも慌てて自分の椅子に座った。

昨日やりかけの仕事を、ミゼットに取ってもらっていると、
「でも、嬉しいばかりじゃなさそう。困ってる感じもあるのかしら?」
フィオナがいきなり話の矛先を、エミリア本人に向けてくる。

昨日から密かに抱えていた複雑な心境を見事に言い当てられて、エミリアは思わず大声で叫んだ。
「そう! そうよ! そうなのよ!」

藁にもすがりたい心境だったエミリアは、昨日母に教えてもらい、これから自分が手伝わなければならない『母の仕事』の内容を、差し障りがない程度に仕事仲間達に語り始めた。

もちろん、エミリアの母が実は天使だったなんて、とんでもない事実は秘密で――。
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