大天使に聖なる口づけを

「つまりエミリアが好きな人とキスしたらいいの?」

天使がどうこうという部分を省き、単なる人捜しとして母の仕事を説明したわりには、フィオナは実に的確に、エミリアの悩みの種を把握してくれた。
それどころか、エミリアが一晩中、悩みに悩んだ事柄まで、あっさりと言葉にしてくれる。

「なら簡単じゃない。お城に行けばいいのよ」
一瞬シーンと静まりかえった後、アマンダの店の作業部屋は、三人の少女たちの悲鳴で埋めつくされた。

「えっ? お城ってなんで? エミリアの好きな人ってお城に関係ある人なの?」
「きゃあ、誰? 私たちも知ってる人?」
「な、なんてこと言うのよ! フィオナ!」

興味津々で迫ってくるマチルダとミゼットの間をかきわけて、エミリアは泰然と仕事を続けているフィオナに飛びついた。

「あら違った? 私はてっきりエミリアが好きなのは近衛騎士のラン……」
「きゃああああ」

自分の悲鳴でフィオナの声をかき消しながら、エミリアは必死に両手でフィオナの口を塞ぐ。

耳に口を寄せ、なるべく小声で囁いた。
「それは違うの! 違わないんだけど……違うのよぉ!」

エミリアの必死の形相は、フィオナの目にはさほど重要なことには映らないらしい。
あくまでも視線は、周囲に巡らしながら、
「どうしたの、エミリア? オーラの色がぐちゃぐちゃだわ……」
いつもと変わらない冷静な声で、真顔のまま語ってくれる。

「それは……そうでしょうねえ……」
二日連続で、朝からとてつもなく疲れてしまったエミリアだった。

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