大天使に聖なる口づけを

エミリアとフィオナが急な用事でしばらく店を休むという申し出にも、アマンダ婦人は眉をしかめはしなかった。

「ああ、いいよ。その代わり、そのあとたっぷりと働いてもらうからね」
商人魂を感じさせる不敵な笑顔に、今後の不安を感じずにはいられなかったが、太っ腹な心意気には深く感謝する。

期待と不安に胸を高鳴らせながら、エミリアは翌日さっそく、フィオナと共に城へと向かった。

アウレディオに指示されたとおり、男物の衣服に身を包み、腰には露天で買った木製の剣までぶら下げていると、少年に見えると言えなくもない。

しかしこれから憧れの人に会うというのに、着飾るどころか男装のエミリアは、そんな自分を嘆かずにはいられなかった。

「いくらなんでも、私たちだってもう十七歳なんだし……すぐにばれると思うんだけど……」
ため息を吐きつつ何度もくり返すエミリアに、

「そう? でも意外と似あってるわよ?」
フィオナはあまり歓迎したくはない誉め言葉を返してくれる。

「そうかな……無理があると思うけどな……」
「私はね。でもエミリアは大丈夫」
「そ、それってどういう意味?」

城へと続く跳ね橋の前に集まったさまざまな年齢の男たちが、叫んだエミリアに一斉に注目したところで、横から伸びてきた大きな手が口を塞いだ。

「ばれたくないと思ってるんだったら、せめて小声で話すか、女っぽい口調にならないように気をつけるかぐらいはしてくれ」

呆れ気味に耳元近くで囁かれた声に、エミリアの心臓はドキリと跳ねた。
しかしその後に続く、甘い雰囲気とはほど遠い内容の言葉が、いっきにエミリアをいつもの正気に戻す。

「黙っていればなんの心配もいらない。お前は立派な男だ、エミリオ」
「…………!」

目を剥くエミリアの顔をのぞきこんで、アウレディオは一瞬、まるで子供の頃のような屈託ない笑顔を、良く整った顔に浮かべた。
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