あの夏に見たあの町で

〜世界の色が変わる時〜




専務が次に車を停めたのは、私の実家がある町の観光の目玉となる市街地にある有栖川グループのホテルの駐車場




「あれ?新館予定地の視察じゃないんですか?」




カッターシャツの袖を直す専務にカフリンクスをひとつずつ返しながら問う




「腹減ったから、まずは昼飯を兼ねて既存のホテルを視察」





時刻はそろそろ昼時でお腹も減った




けど、ここってランチでも結構なお値段したはず...




「お前、ここで顔割れてないよな?」



目だけでチラリと見遣る専務に頷いて答える




プライベートでも仕事でもこのホテルに来たのは初めてだ





専務はニヤリとあの不敵な笑みを見せ、車を降りた



私も車を降りようとすると、専務がジャケットを羽織りながら助手席に回ってきてドアを開け手を差し出した





この座り心地のいいシートから立ち上がるのは、なかなかに困難なので有難く差し出された手をお借りして車から降りる





専務は助手席のドアを閉めると私の手を握り直し歩き出す




「えっ?専務、手――――」




引っ張られるようについていくしかない私は手を放そうとしたが、握られる力が強くなった






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