ヒロインの条件
条件5ー閉じ込められる

佐伯さんが私に好意を寄せてくれるから、私も佐伯さんが気になっている。じゃあ千葉も私のことが好きって言ってくれるんだから、千葉のことも気になってるってことになって……。

「でも千葉は千葉だしなあ」
夜、私はベッドにゴロンと横になった。佐伯さんの正体がばれてからのここ二日ほど、割と穏やかに暮らしている。しばらくジェットコースターに乗ってるみたいに毎日振り回されていたから、何もないと「あれ?」と拍子抜けがしてしまう。

しかし、佐伯さんとはどこで会ったんだろう。私は枕を抱きしめながら、懸命に思い出そうとした。お兄ちゃんの友達でもない、道場でもない、中学でもなくて、高校でもなくて、大学でももちろんなくて。

じゃあ、どこ?

冷静に考えてみよう。だって千葉が思い出せたんだよ? じゃあ私も絶対に会ってるはず。おそらくその時、佐伯さんはメガネをかけていて、きっとそれは「2012年」だった。

「柔道ばっかりだったからなあ。他にめぼしいことはなかったけど」
しきりに首をひねったけれど、結局何も思い出せない。

うんうん唸りながらベッドに転がっていたら突然、パッと電気が消えてしまった。

「うそ……何?」
私はベッドからがばっと起き上がると、暗闇に目を凝らした。天上に設置されている、暗闇でも光る火災警報装置も、それからデジタル時計も、全部消えている。慌てて手元のスマホを開くと、真っ暗な中にポッと白い明かりが溢れて、心底ほっとした。

ネットを開いても、別にニュースになってない。でもよく見ると、WIFIマークが消えている。そうか、このマンションだけ停電しているんだ。

停電ならすぐに復旧するだろうと思ったけれど、なかなか電気が戻らない。どうしよう、なんだか……。

暗闇の隅で、ガタッと音がした気がして、私はじっとその場を凝視する。背中から首にかけてざわざわしてきた。

ああ、やだ、これ。

私は本当にお化けが嫌いだ。本当に本当に嫌いだ。だって、これまでなんども「あれ?」というような体験をしているからで……。
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