異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。
八話 掴み取るは栄光か滅びか、王座か烙印か

 傷の痛みを鎮痛薬で誤魔化しながら進軍すること一週間。私たちはついにエヴィテオールの国境付近の森に到着する。ここから王宮までは馬で数十分の距離にあるらしく、国境を越えた瞬間から開戦となるのは確実だった。

 鬱蒼とした森の中、木々が倒れて多くの日が差し込む空間に連合軍の面々を集合させたシェイドは向き合うように立ち宣言する。

「俺は血で血を洗うような真似はしない。これから相対するのは同じくエヴィテオールの民である。つまり、俺たちがこれから守り慈しむ命でもあるのだ。よって敵兵は可能な限り生かして捕らえよ」

 そう言いながら彼は腰のサーベルを引き抜くと剣先を天に向けて掲げる。

「祖国の安寧を願う同志たちよ。力で捻じ伏せ従えるニドルフ王子の愚行を止めるためにも、この俺についてきてくれ」

 彼の左脇にはアスナさんやローズさん、右側にはダガロフさんとエドモンド軍事司令官が立っており、それぞれ武器を掲げる。シェイドに続いて私たちも「オォーッ!」と地響きを起こすほどの雄たけびをあげ、ついにそのときを迎えた。

「皆の者、俺に続け!」

 颯爽と馬に跨ったシェイドに続き、皆も馬に跨る。先陣を切ったシェイド率いる月光十字軍とは反対に治療師は最後尾について幌馬車で後を追う。

 国境の警備兵を押し切って城下町の中を勢いよく通り抜けると、花壇に囲まれた芝生の公園や錬鉄ながらアーチの優美な塔。教会を囲むように青い屋根と白い壁から成る家々が立ち並ぶ、異国情緒あふれる町がそこにあった。

 しかし近々戦争が起こるとわかっていたからなのか、町には人気がない。お店や家の窓から見える室内は真っ暗で人が住んでいる様子はなく、広場に馬車のひとつも停まっていない。

 活気のない町を視界に捉えながら、戦争が奪うのは命だけでなく当たり前の生活や日常も同然なのだと思った。

「城下町中央部にて王宮騎士団と応戦中。五名の治療師は残って負傷兵の手当てにあたってくれ」

 治療師の乗っている幌馬車の隣に馬を寄せた伝令役の兵がそう声をかけてくる。指示を受けた私や月光十字軍の治療師たちは幌馬車内で顔を見合わせた。

 私たちはあらかじめ、誰がどの地点に残るのかを打ち合わせていた。先ほど突破した国境にもすでに二名の治療師を置いてきている。ここではマルクを含んだ五名の治療師が幌馬車を降りることになっていた。

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