異世界で、なんちゃって王宮ナースになりました。


 動ける月光十字軍の兵たちを連れて、シェイド様はミグナフタ国の城郭都市へと向かった。傷が癒えていない者は要塞で治療を受けてから、合流することになっているらしい。

 私たちは二頭の馬が引く十名乗りの大型四輪の幌馬車に乗って、草原の中を進む。トルコ石の空と心地のいいそよ風に包まれていると、戦場を駆け抜けた数日前のことが夢のことのように思えた。

 やがて馬車は城門で検問を受けて、ミグナフタ国に入る。石畳の道を真っすぐ進む馬車から、十字架を掲げる白亜の教会やレンガ造りのお店や住宅が見えた。

 町の中央まで来ると広場があり、果物や装飾品が売られている屋台や大道芸で賑わっている。その入り口では客待ちをしている辻馬車が停まっていて、まるでファンタジーの世界に迷い込んだようだ。

 十四時間かけて城下町まで移動すると、ようやく城の外観が見えてくる。石造りの塔や居館がいくつかそびえ立ち、居住区を囲むものとは別で高い城壁に守られているそこは童話から飛び出してきた城そのものだった。

 中に通されて、ひと際大きな扉の前に連れてこられた私たちは執事が開けてくれた扉の中へ足を踏み入れる。

 案内されたのはシャンデリアに照らされながらも、石造りの壁がどこか重厚感を生み出している謁見の間だった。

 大理石の階段の上にある王座に向かって伸びた真紅のベルベットの絨毯を中心に、両側の壁には大勢の騎士や政務官が鋭い視線をこちらに向けて控えている。

 私たちはシェイド様を先頭に王座の前に出た。途方もなく長い城の廊下を歩いている途中にマルクから簡単に教わった付け焼き刃の作法ではあるけれど、私は失礼のないように他の治療師や兵の動きに合わせて謁見の間で片膝をつき、頭を低くする。

「よく参られた、シェイド王子と月光十字軍の者たちよ」

 齢い四十である柔和な切れ長の目をした男性、ロイ・ミグナフタ国王陛下は王座からシェイド様の来訪を喜んでいた。その隣には王妃と二十四歳になるというアシュリー第一王女が座っている。

 ミグナフタ国の王族の方々のことは馬車の中でシェイド様が話してくれたので、難なく目の前の人物と聞かされていた名前を一致させることができた。

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