初めに聞こえたのは、なにかが爆ぜる音と誰かの怒号。次に感じたのは、肌にまとわりつくような生暖かい風と嗅いだことのある甘くすえた臭い。これは、看護師なら誰でもわかるだろう。医学的には細胞が腐っていく臭いだとも言われる死臭だ。

 私は恐る恐る目を開ける。真っ先に視界を占領したのは、赤。頭上に広がる青空とは相反して、地上は火の海だった。

 たちこめる硝煙の中には剣のようなものをぶつけ合っている人影が見え、どこからか銃声に混じって悲鳴まで聞こえてくる。

「嘘、でしょう」

 ついさっきまで、私は湊くんのエンゼルケアをしていたはずだった。その証拠に職場で着ていた真っ白なワンピースタイプのナース服姿のまま、私は土の上に座り込んでいる。

 ハーフアップにしている長い黒髪が巻き上げられるほどの熱風の中でしばらく呆然としていると、目の前に鎧を身につけた男が転がってきた。

「きゃっ」

 か細い悲鳴を上げた私は、地面を滑るようにして目の前に倒れた男をじっと見つめる。彼の身に着けている鎧は肩や腕、それから胸を覆う部分的なもので、見たところ剥き出しになっている右大腿部に切り傷があり、血がに滲み出て服をじっとりと赤く染めている。

 しっかりしなさい、今はこの人の手当てをするのよ。

 怪我人を前に少しでも動きを止めた自分を叱咤して、私は這うように彼のそばへ行く。そして裂けていたズボンの布を両手で広げると、出血部位を直接確認した。

「出血の勢いは弱いし、鮮血でもない。静脈性の出血なら、すぐに止血できるわね」

 私は彼の服の裾を引きちぎり、その布を傷口に当てて直接圧迫する。痛みに顔を歪めた男性は、私を見て警戒するように睨みつけてきた。

 ここは、あきらかに戦場だ。病院にいたはずの私がどうしてこんなところにいるのかは謎だが、今はこの人を助けることだけに集中しよう。

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