いつもの四月だった。少し肌寒いその春は、桜がまだ咲いていなかった。
私は桜が嫌いだ。毎年春は、昨日まではまだ少しの陽気の中、控えめな春の花が少しほころんでいるくらいだったのに、ある日突然、朝起きると、ピンク一色の世界になっている。その光景を見ると、私はいつも憂鬱になる。他の色を押しのけて、自分の色だけで世界を染め上げるような、そんな傲慢さを、あの花は持っている。
 人はみな、あの花が咲くと心踊らせ、新しい時への期待をふくらませる。しかし私は知っている、あの花の色は、人の心を誘い、惑わすということを。あの花の色は、人の心を落ち着かなくさせ、「新しい世界」という、実態のない浮ついた世界へと人を誘うということを。