湖にうつる月~初めての恋はあなたと
4.初デートなのに
4.初デートなのに


私のお見合いが破談になって、父はすごく落ち込んでいた。

そりゃそうだよね。

父にとったら、外科医なんていう最高の地位を獲得している文句のつけようもない相手だったから。

あくまで父にとって、だけど。

しばらく私と口を利いてくれなかった父も、1週間経ってようやくぽつりぽつりと会話するようになった。

「もっといい相手を探してやるよ」

「自分で探すからいいって」

「お前が自分で探せるわけがないだろう?」

父は私のことが心配でしょうがないんだと思うけど、もう少し自分の娘を信じてみようという気にはならないのかな。

私ももうすぐ29歳になるっていうのに。


その時私のスマホの着信音が鳴った。

澤井さん!!?

澤井さんとはあれから会ってない。電話もメールも結局していなかったから、付き合おうなんて言ったのは結局澤井さんの戯れ言だったのかもしれないって思い始めていた。

緊張を抑え込みながら電話に出る。

「はい」

スマホに耳を当てながら、父のいるリビングを離れ2階にゆっくりと上がる。

『谷浦さん?』

「はい、ご無沙汰しています」

『相変わらず固いねぇ。彼氏にそんな返し変でしょう?』

「でも、ご無沙汰はご無沙汰です。あまりにご無沙汰だったのであの話は澤井さんの戯れ言かと思っていました」

電話の向こうで澤井さんが楽しそうに笑っていた。

『ご無沙汰って、どれくらいの期間が空いたらご無沙汰なのかな。1週間くらいよくある話じゃない?』

「そうでしょうか?1週間もあったら電話の一本くらいあってもよさそうですけど」

自分の部屋に入り、扉を静かに閉めた。

私は何をそんなにムキになって澤井さんに絡んでるんだろう。

ようやくかかってきた電話だというのに、なんてかわいげのない言い方をしている自分に嫌気がさす。

本当は・・・・・・



・・・・・・嬉しいくせに。

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