湖にうつる月~初めての恋はあなたと
6.どうしていいかわからない気持ち
6.どうしていいかわからない気持ち


「さっきからジロジロこちらを見て、一体なんだ?」

餡を練っている父が横で生クリームを泡立てている私の方にちらっと視線を向ける。

「え、えっとね・・・・・・何でもない」

「さっきからそればっかりだな。言いたいことがあるならはっきり言え」

父は軽く舌打ちをすると、店に出ている山川さんを呼び、2人でまんじゅうに餡を詰めていく作業に取りかかり始めた。

ふぅと小さくため息をつく。

澤井さんと一緒に住みたいっていうたった一言が言えずに1週間が経っていた。

一言だけど、その内容の重さは私には計り知れない。

「おい真琴!生クリームどろどろになってるぞ」

「あ!ほんとだ」

泡立て過ぎて角が立つどころか固まってきていた。

「ったく、何をぼーっとしてんだか。そんなんだと嫁に行くのもまだまだだな」

父は悪態をつきながらも楽しそう笑いながら手を休めることなくまんじゅうに餡を詰めていく。

「そんなこと言っちゃって、真琴ちゃんがお嫁に行って欲しくないだけでしょう?」

山川さんが父にすかさず突っ込んだ。

「そんなことはない。早くいい相手が見付かってくれたらこんな安心なことはないさ。空の上の母さんもきっと心配してるぞ」

父も山川さんも私のこと心配してくれてるのはすごくわかっていた。

でも、それ以上聞いてくることはなかったし、あのお見合い以来そういう話を持ちかけることもなかった。







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