湖にうつる月~初めての恋はあなたと
7.桜の花弁が舞う中
7.桜の花弁が舞う中


自分の父以外の誰かと一緒に暮らすなんて初めての体験でずっとドキドキしっぱなしだった。

お風呂に入るのもトイレをするのも、食事をするのも、ベッドで寝ることも。

澤井さんは仕事が忙しくて、なかなか一緒に食事をとることはできなかったけれど、毎晩お風呂上がりの澤井さんに「おやすみなさい」を言うだけでもどうしていいかわからないくらいに緊張する。

濡れた髪をタオルで拭きながら、ラフなトレーナースタイルでいつもよりもすっきりした顔の彼は直視していられないほど素敵で。

同居生活が丁度1週間経った夜、久しぶりに一緒にテーブルを挟んで2人でビールを飲んでいた。

「少しはこの生活に慣れてきた?」

「ん、慣れたというか未だにドキドキしてます」

すっぴんの頬を両手で挟みながら気持ちを伝える。

「そうか」

澤井さんはビールの缶を開けると、おいしそうに喉に流しこんだ。

そして、缶をテーブルに置き私を正面から見つめながら言った。

「俺もドキドキしてるよ、毎日」

「え?」

その目がとても優しく潤んでいたので、思わず目を伏せる。

「今まで出会ったことがないくらいに純真できれいな君を思わず傷付けたくなる」

意識をどこかに逸らさないと、自分の気持ちが大きな塊になって体から飛び出しそうだった。

そんなこと言うけれど、きっといつものようにからかってるだけだとわかってる。

だけど、澤井さんにだったら傷付けられたっていい。

いつの間にかそんな気持ちにさえなっていた。あんなにも男の人が苦手だったのに。

「お父さんは本当に真琴を大事に育てられたんだろうね。君を知れば知るほどそのことが痛いほどに伝わってくるよ」

彼の言葉が優しく私を包んでいく。






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