副社長は花嫁教育にご執心
初めてのお泊り
程なくつかまったタクシーで三十分ほど走り、彼の自宅マンションに到着した。
私はうつらうつらしていたため「もう着いたの?」という印象だったけど、寝ぼけていた思考は目の前の超高層マンションによって、完全に目覚めた。
「まさかここが家なんですか?」
「そう。うちは三十六階」
「……高所恐怖症じゃなくてよかった」
「なんだその感想。まつりってホント面白いな」
くすくす笑う彼の後について、建物に入る。ホテルのラウンジのようなロビーを通って、二基あるうち高層階専用のエレベーターに乗った。
なんだかいつもより重力を感じる気がして、無意識に足をふんばってしまう。
しかし、そんな落ち着かない雰囲気も、部屋に入ってしまえばなんてことなかった。
というかそれ以上に、五十平米はありそうな広々と開放的なリビングに大興奮。窓からは、宝石をちりばめたような大都会の美しい夜景も見渡せた。
「支配人! 新幹線が見えます! N700系!」
「子どもか。しかもなんでそんなに詳しいんだ」
「昔さんざん弟にDVDとか見せられてたから、いやでも覚えちゃって」
「……なるほど。まぁ俺も昔は“男の子”だったから、電車の行き来を眺めるのは嫌いじゃないけど」