大王(おおきみ)に求愛された機織り娘
「あのっ、お待ちください!」

母が珍しく大きな声を上げた。

「その子は、大王に献上する絹を織る機織りの
娘でございます。
その子がいなくなると献上品の絹が織れなく
なってしまいます。
どうかご容赦いただいて、お捨て置き
くださいませんでしょうか。」

母は床に額が付くほど頭を下げた。

「そなたには娘は1人か?」

男が尋ねた。

「………その子の妹が2人おります。」

母が答えると、

「ならば、妹に機織りを継がせればよい。
アヤは、俺の妃とする。」

男はそう言って、雨の止んだ屋外へと私を連れ出した。


妃?
妃って、何?

訳が分からないまま、男に連れられて行く。

すると、馬に乗せられそうになり、私は慌てて抵抗を試みた。

「何するんですか?
やめてください!
私は行きません!!」

暴れて逃げ出そうとするが、しっかりと掴まれた手首は、どうやっても解けない。

そうこうするうちに、私は担ぎ上げられ、馬に乗せられてしまった。


た、高い…

馬の背は、下から見て思っていたよりも、ずっと高い。

私は足がすくんで、飛び降りる事も出来なかった。


ひらりと私の後ろに乗った男は、私の脇を抱えるように手綱を握ると、馬の腹をひと蹴りして駆け出していく。


初めて乗る馬は、上下に跳ねて、いつ落ちてもおかしくない。

馬って、こんなに揺れるものなの?
お尻が痛いくらい。

私は、怖くてドキドキしていたが、後ろの男がしっかりと抱き抱えてくれていたので、次第に身を任せて安心して乗っていられるようになった。


こうして、私の初めての乗馬は、何とか無事、落馬する事なく、終了した。
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