目を閉じたら、別れてください。
オオカミ男、オオカミ女



 焼き鳥屋『懐古』に到着したのは予約時間から数分過ぎてから。
目と鼻の先にある焼き鳥屋で、今まで顔をよく見ていなかったが渋くて若い旦那とバイトの大学生二人、計三人で切り盛りしているこじんまりしたアットホームな焼き鳥屋。
棚に並べられたストックのお酒の多さと、狭い店内、そして漂う炭火で焼く焼き鳥の良い匂いに、いつもなら疲れが癒されていく。いつもなら、だ。

「なんかあ、悪い男の匂いがしましたぁ。絶対に、頭がいいですよね」
「……そこが良いなって思ってたんだけどね」
「何か月付き合ってたんですか?」
「に、かげつ?」
お見合いして、三回のデート内で交際するか決めろって言われたんだけど、一回目にドライブしたときに『一目会った時から決めていました。桃花さんの意見はどうでしょうか』って丁寧に聞いてきてくれたのが嬉しくて、浮かれて大暴走したのは私だ。
あんな素敵な人に一目会った時から――なんて言われたら舞い上がる。
それに私ももちろん、第一印象はパーフェクトで心の中で大喝采していたしね。

「で、本題ですよ! どんな悪い別れ方をしたんですか! 悪女!」
「ぶっ ビール吐くからやめて。……その、まあこの傷を見てよ」

こそこそとセーターを捲ってお腹の横腹を見せた。
うっすらと浮かぶ傷と、ぽっこり浮かんだ小さな傷を見せる。

「傷って」
「盲腸。ちらすのが面倒だったから切ったんだけどね。まあ、彼との事故で切った傷はここ」
「……うっすらと盛り上がってる場所ですか? これが傷跡?」

お腹を捲るのをやめて、ビールを一気飲みした。

「盲腸の傷を、事故の傷だと嘘を吐いた」
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