きっと夢で終わらない
「例えば?」

「ひとつお願い聞いてもらう、とか」

「お願い?」

「大丈夫。道徳はきちんと弁える。あ、ほらもう行ったほうがいい」


壁の時計を指差す弘海先輩。
授業開始まであと三分ほどだった。


「わ、本当だ。じゃ、失礼しました」

「うん。また明日」


ひらひら手を振る弘海先輩に会釈して、ゼミ室を出る。
体育館の方からバタバタとかけてくる生徒、体育館の方へ駆けていく生徒が左右に流れていく。廊下は走っちゃいけないと言われるけれど、今は時間がないので私も小走りで生徒会室の前を通り過ぎ、三階に上がった。


不思議だ。とても。
三年前、弘海先輩とはこんな話もしたことなかったのに、今は普通に、自分のことも話しちゃってるし、弘海先輩の話も聞いちゃってる。
花壇に水をあげながら、今日は暑いとか、花が綺麗だとか、明日は雨が降るとか、世間話程度の言葉しか交わしてこなかったのに。

色々バレてしまって吹っ切れたか、素直に相手に自分の考えを言っている自分に、ちょっと驚いてもいた。
やっぱりなんだか、弘海先輩は少しだけ違う。


明日のことを思うと、少しだけ足取りが軽いように感じられるのも、久しぶりのことだった。
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