きっと夢で終わらない
細い針が身体中に刺さるのを感じた。
静かに戸を閉めて、自分の両二の腕を抱きながら、ポツンと一つだけ空いた窓際一番後ろの席に向かう。
今までこんな雰囲気もものともしなかったのに、自殺が未遂に終わったこともあって、今まで心臓を覆っていた鋼鉄が剥がれた私は、随分と弱くなってしまった。

知らないふりをして、肩を上下させながら窓際へ歩く。
カバンを放り投げたいのも我慢して、静かに席に着いた。


普通なら誰もが羨む窓際の一番後ろは、私限定の隔離スペース。
誰も近寄らないし、私の一つ前の人も、右斜め前の人も、まるで最初っからから私はいないものとみなしている。

無関心の領域に置かれる。


目に見える嫌がらせを受けているわけではない。
話しかければそれなりに返事をくれるけれど、それ以上踏み込むことは許されない。

許してくれるかもしれない。
でも、踏み込めない。

無言の圧力は、効果的に精神的にダメージを受ける。
だから私はできるだけ教室に居たくない。


縋るものが何もない今は、耐え難い。
視線が、空気が、私を刺していく。
私は、無力で、存在意味も見失った。

その分、毅然に振る舞おうとも、折れてしまう。
でもなけなしのプライドで奮い立たせる。
弱いところ晒せば、それに付け込まれるかもしれないから決して見せたりなんかしない。

気にしない。
周りなんか気にしない。
目を閉じて、深呼吸をする。

大丈夫。
今日も一日うまくやれるはず。
そしたら明日が来てくれる。
一番来て欲しくて、一番来てほしくない明日が。

明日にはもう少し、状況が変わっているかもしれない。
明日は、天国が待っているかもしれない。
今でもなお、そう思ってしまう自分が、ひどく可哀想にも思えた。


カラカラ、と教室前方の扉が開いて、担任の榊原花純先生が入ってきた。


「起立。礼」


花純先生が教壇に立ったのを合図に、学級院長の号令で挨拶をする。
ガタガタと椅子を直して着席すると、今日の一日が始まる。
花純先生は出席簿を開いて、生徒と空席の確認をするとパタンと閉じた。


「おはようございます。全員出席、ね」
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