きっと夢で終わらない
「驚いてるね」

「…………」

「久しぶりに様子見に来ただけだよ」


弘海先輩が指差したのは、アガパンサスのプランター。

アガパンサスを植えたのは、弘海先輩だった。
自分がひとつ植えても景観は変わらない、と理由を付けて花屋で苗を買って来て、体育館倉庫のあたりに転がっているプランターに植えていた。となりのひまわりも、きいちゃんが同じような理由で植えたもの。薔薇は化学の妻木先生が植えたもの。

アガパンサスの植え付けは秋だが、開花時期は初夏だから、弘海先輩は結局見ることのないまま卒業してしまった。


「それと、謝りたいことがあって」


弘海先輩はそう言って、また水やりを再開した。
アガパンサスに雨が降る。みるみる土が湿って、花弁はキラキラと輝く。
太陽を背に受けて、その横顔がはっきりと見えない。


「初めてあった時、水かけたこと」
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